2012/02/07 Categories: 未分類

 無惨な状態の仏舎利塔を見せられたときほど、イスラム教国に住む、少数民族仏教徒の悲哀を感じたことはなかった。

 仏教に敬意を払わない周囲のベンガル系住民に荒らされ放題だった仏舎利塔を見たのが4年前。その時から僕は、“いつかは修復して、ここに住むラカインのみんなの喜ぶ顔がみたい”と願って来た。

 コックスバザールの仏舎利塔群は、丘の上にあって360度、とても見晴らしが良い。ちゃんと整備すれば、聖地公園になり、人々の憩いの場所となるだろう。だけど、ここの大切さを理解できない人たちに汚されたりして、荒れ果てていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

<きれいになった仏舎利塔>

 そこで昨年から、思いきってNPOユニで修復整備の工事を始めた。そして修復記念式典が行われるのが、今日この日だった。

 ラジョーさんが私費で雇っている仏舎利塔の世話係の人たちは、今日のセレモニーのため、昨日から忙しく働いていた。下のお寺の広大な土地は、ラジョー氏の祖父が寄進して、お寺まで建てたという。

 何せかつては、この辺りの土地のほとんどを、ラジョー氏の家が所有していたという。彼は、そういう家系に生まれた人だった。ようするに太宰治とか、シッタルダ王子とか、鳩山由紀夫さんのように、“お坊ちゃま”だったのだ。(お坊ちゃまの良い点は、お金に対する執着が少ないので、信頼できるところである)

 さて、お坊ちゃま論はこのぐらいにして話を戻そう。

 朝のセレモニーの後は、来た人々皆に、朝食やお茶の接待をするという。テーブルやたくさんの椅子なども、みんなで丘の上まで運ばなければならない。なかなか大変そうだ。200〜300人分の料理やお茶も運ばなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

<丘の上から見える景色>

聞けば、ラジョーさんは200軒のラカイン人の家に、今日の記念式典のことを一軒一軒、知らせて回ったそうだ。少数民族だから、回覧版なんていう便利なものもないのだろう。

 それで、どうやら準備作業が終わったのが、深夜の1時半とかだったらしい。泊ってほぼ徹夜で作業した人もいるとのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

<皆、忙しく働いている>

 セレモニーは、朝8時から。僕も僧衣に着替えて出かけていった。まゆさんと3人で朝日の下、丘の上を登っていく。ラジョー氏も、今日は神妙な顔をして口数少なく、木魚なんかを持って歩いている。

 着いたら、もうすでにたくさんの人々が集まっていた。皆、本当にうれしそうである。笑顔でしてくれる挨拶には、感謝がこめられているようでいて、心が温まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<念仏道場>

儀式は、念仏道場として使うことになっているお堂で行われた。最初に、タオサンガ式のお勤めで儀式を行う。念仏会に参加している人は一緒に唱和する。その後、ラジョー氏が挨拶し、仏舎利塔が修復されるに至った経緯を簡単に説明する。(彼も照れ屋なので、本当に一言で終わってしまった)

 

 

 

 

 

 

 

 僕にも“何か話しますか?”と聞かれたが、「みなさん来てくれてありがとう」だけで済ましてしまった。(ここぞとばかりに演説始めるなんていうカッコ悪いことはしないのだ。小学生が遠足行くときのコーチョー先生じゃないもんね)

 その後、下のお寺からラカインの僧侶が2人来て、今度は上座仏教の儀式を行った。

 2つの式典が終わった後、来客にお茶と朝食が接待された。丘の上で見晴らしも良く、皆でニコニコと食べている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<食事の接待>

そういえば、3年前、あまりにもキタナかったので、ラカインの学生たちも集めて、ヨーロッパ、カナダのユニメンバーたちと一緒に、皆でここを掃除したのだった。

 ただ掃除しただけだから、当たり前なんだけど、それでも、ちゃんときれいになったとは言えなかった。それが今は、すべての仏舎利塔がリフォームされ、本当にきれいになった。丘の上に座って仏舎利塔群や周囲の景色を眺めているだけで、とても気持が良い場所になったのである。

 もっとも僕たち3人(ラジョー氏、まゆさんと僕)は、すぐにさらなる整備について話し合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

周囲をお花畑にしよう。そのために井戸を掘りポンプを設置し、トイレも造る。そして、ここに簡単な軽食も出せる屋外喫茶店を作ろうではないか、と大いに盛り上がる。NPOユニの夢は尽きないのだ。

 お客はその後も、次々とやって来ては修復され、リフォームされた仏舎利塔を楽しみ、食事の接待をされては帰って行った。用意した食べ物やお茶もほとんど無くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<子供たち>

仏舎利塔でお昼まで過ごした後は、ラジョー氏の家でランチを頂く。

 一休みした後はセンターに行き、デスクなど備品の買い物。

 その後はセンターで、毎週京都で行っているダルマトーク(法話)のネット配信をやろうとして、数時間四苦八苦する。でも結局、バングラデッシュのネット環境ではまだ無理だということがわかって終わった。でも、少しだけ、京都のみんなとビデオ•スカイプができた。

 夜は、やっと微熱も抜けて、頭がすっきりしたようだ。セレモニーの功徳かなあ?

 咳は相変わらずだけど、これは街中に飛び交っている、土ボコリのせいだろうと思う。(←ホントか) でも、風邪が抜けた記念に、一大決心してシャワーを浴びることにした。

 実は、ここは水しかでないシャワーなのだ。それに、夜はけっこう涼しい。ラジョーさんなどは、夜になると“寒いですねぇ”とか言って、頭にふろしきみたいなのを冠っているぐらいである。(まるで、昔の日本のドロボウにでかける人みたいだぜぃ)だから、夜シャワー浴びるのは、それなりに決心が必要だったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<頭から、風呂敷みたいな布をかぶっているラジョー氏>

でも、「僕、これからシャワー浴びます!」と宣言した。すると、ラジョー氏が“えー!? これからですかぁ?”と驚いてた。すると、“ちょっと待って”と言い、しばらく待っていると、お湯を湧かしてバケツに入れて持って来てくれた。

 これは、シャワー室でお湯を水に混ぜながら、身体を洗うシステムである。“そういえば、インドでもこんなことしてたなぁ”と思い出しながら、温かいお湯で、久しぶりに身体中についたほこりを洗い流す。いや、まさに極楽である。

 すっきりしたところで、ラカインUNIという地域通貨の発行について、3人で相談する。

 それはこんなアイデアだ。まず、学生が1時間ユニのプロジェクトとかで働く。すると、センターで発行する1UNIという地域通貨をもらう。1UNIで、2時間分の無料ネットができる。とまあ、こんな仕組みである。

 ゆくゆくは、もっと流通させるにしても、まずはそんなところからスタートしてはどうかなあ、と話し合った。地域通貨ラカインUNIの準備である。続く